四十九
半堂未歩子
日々、非常勤で稼いでいる私だが、インプラントをすることになってしまった。総額四十九万円也。非常勤の私では、到底支払えない額…。これは、常勤で働くしかないのでは…。最初はお金さえ稼げれば、何の仕事でも良いと考えた。でも折り返し電話がかかってきたり、メールでの返信を受けるうち、ちょっと違和感を覚えてきた。
やっぱり私は日本語を教えたり、学校で働くことが大好きだ。これは新たに仕事を探してみて、改めて気づいた自分の気持ちだった。ということは、常勤の仕事の申し込み先は、教育委員会がベストではなかろうか。ずっと非常勤で日本語指導に携わっており、専門教科の中学英語や高校英語は教えたことがないが、仕方ない。
常勤の仕事を申し込むにあたって、夫に了解を取っておく。夫からの一言は、これ。「ふーん。申し込んでもいいけど、そんな未経験のアラフィフなんか、誰が採る?」
悔しさに身悶えるも、しごく真っ当な意見にグウの音も出ない。せめてもの反論として、万が一採用された場合にはお皿洗いをやってもらうことを約束する。見てろよ。
見てろ…。 しかし連絡も無いまま二月中旬…。仕方なく、また求人を検索していると、私立学校が求人をしているではないか!「これぞ私の為の求人っ!」とばかりに申し込む。折り返しの連絡もすぐに届き、面接や試験の日程も早速決まる。
面接の先生方は、とても話し易い。和やかな雰囲気で面接を終え、筆記試験へ。まずは、専門教科の英語から。静寂の中、裏向きの試験用紙が配られる。「では、十四時ちょうどになったら、始めて下さい。」
十四時。試験用紙をひっくり返す音。英語の勉強は欠かさないし、大丈夫なはず。大丈夫…? む…、難しい…! 何とか解答を捻り出すが、二箇所も空欄を残したままタイムアウト。無念の惨敗。ああ! もう受からない!
休憩を挟んで二時間目は、一般教養の筆記試験。先程と同じ試験官の方が試験用紙を持って来る。テストの開始時、先程とは打って変わって「じゃあ、適当に始めちゃって下さい。」
( ええ? 何だ、このラフさは? ああ!もう落ちたんだ! さっきの英語の出来が悪すぎて、不採用確定なんだ! この一般教養の試験は、消化試合なんだ〜! )
内心泣きつつも、一般教養の試験を頑張って解く。といっても急に申し込んだ求人で、試験勉強もできていない。解らない○×問題には全問◯を付けたりして、更なるアホを晒してしまう。結果は後日連絡をもらえることとなり、会場を後にする。
落ち込みつつも結果を待っているある日、教育委員会から電話を頂く。「◯○市教育委員会ですが、来年度から日本語指導をやってもらえますか。」「あー、日本語指導はいま××市でやっているのですが、来年度はやめようと思っているのです。今は常勤の仕事を探しています。」「えっと…? 常勤のお仕事のお話なのです
が…。」
「!!」
危うく、常勤の日本語指導の仕事を断ってしまうところだった。「未経験の英語教師」ではなく、ずっと続けてきた日本語指導での採用だ。喜んでいるところへ、私立学校からも採用の連絡を頂く。なな、何と! すごいね、私! しばらく悩んだが結局、公立で日本語指導の方を選ぶ。提出書類のため、数日間で眼鏡屋に、眼科、レントゲン撮影へと走り回り、五万円も支払う。まあ、来月から稼ぐための、先行投資だと諦める。
そうだ。来月からは稼げるのだ! 来月からの稼ぎを想定して、夫に話しかける。「来月からは、私が一家の食費を担うよ!」「えー? いきなり? そんなに貰える訳ないって!」
そ…、そうかな…? 夫の減らず口は相変わらずだが、とにかく来月からは常勤で働くことが内定した。非常勤の時のようには、家事ができなくなるだろう。自分の自由時間も、減ってしまうと思われる。でも娘たちや夫の協力を期待して、来月から働いてみようと思う。職場が変わってしまうので不安もあるが、支払いのためにも頑張らなければ。半堂未歩子、四十九歳。出産で退職して以来、実に二十一年振りの常勤復帰である